リグレーフィールドのツタに打球が消えたら?知られざる特殊ルールと歴史
メジャーリーグ屈指の歴史を誇るシカゴ・カブスの本拠地、リグレー・フィールド。その象徴として世界中のベースボールファンに愛されているのが、外野フェンス一面を覆い尽くす鮮やかな緑のツタ(アイビー)です。クラシックなボールパークの風情を醸し出す美しい景観ですが、試合中に放たれた鋭い打球がそのツタの中にすっぽりと吸い込まれ、姿を消してしまうハプニングが時折発生します。
ボールが外野の茂みに消えた瞬間、グラウンド上では一体何が起きるのか。選手のアクション一つで判定が180度変わる独自のグラウンドルールから、レンガ造りのフェンスにツタが植えられた歴史的背景、さらには季節の移ろいとともに表情を変えるツタの生態まで、観戦が何倍も刺激的になる深層知識を徹底的に解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ツタの中に打球が挟まって消えた場合、外野手が両手を挙げてアピールすれば「エンタイトルツーベース(二塁打)」が宣告される。
- 要点2:1937年に奇才プロモーターのビル・ベックが美観向上のために植樹したもので、ツタの裏側はクッションのない頑丈なレンガ壁である。
- 要点3:植えられている品種は「ボストンアイビー」で、春先の枯れ枝から夏の深緑、秋の鮮やかな紅葉まで季節ごとに劇的な変化を見せる。
【消えた白球の行方】ツタにボールが挟まった場合の判定基準とグラウンドルール

リグレー・フィールドで最もスリリングな瞬間の一つが、外野フェンス際への大飛球です。打球がフェンスを直撃した際、鬱蒼と茂るツタの中にボールが挟まり、フィールド上に落ちてこないケースが毎シーズン数回は見られます。このとき適用されるのが、MLB公式規定に基づくリグレー・フィールド独自のグラウンドルールです。
打球がツタに挟まった、あるいはツタの奥に潜り込んで見失った場合、外野手が即座に両手を高く挙げて審判にボールロストをアピールしなければなりません。審判員が状況を確認してボールがツタの中に留まっていると認めれば、審判はボールデッドを宣告し、打者走者および走者全員に2つの安全進塁権が与えられる「エンタイトルツーベース」となります。
ここで極めて重要なのが、外野手の判断と行動です。もし外野手が両手を挙げずにツタの中に手を突っ込んでボールを探し出そうとした場合、インプレー(試合続行)とみなされるリスクが生じます。探している間に打者走者がダイヤモンドを一周してしまえば、ランニングホームランが成立してしまう恐れすらあるため、外野手には「迷わず即座に手を挙げる」という鉄則が染み付いています。
一方で、打球がツタに当たってグラウンドに跳ね返ってきた場合は通常のインプレーとなり、ボールを拾って送球しなければなりません。ツタに触れた瞬間に挟まったのか、跳ね返るのかを一瞬で見極める高度な判断力が、カブスの外野陣には常に求められています。
【1937年の誕生秘話】なぜ外野フェンスにツタが?奇才ビル・ベックの植樹劇

1914年に開場したリグレー・フィールドですが、最初からツタに覆われていたわけではありません。外野フェンスに緑の生命を吹き込んだのは、後にメジャーリーグ界で伝説的な名物オーナーとして名を馳せるビル・ベック(Bill Veeck)でした。
1937年、当時カブスの球団社長補佐を務めていた若き日のビル・ベックは、無機質な赤レンガの外野フェンスに温かみと美しさを加えたいと構想しました。当時のオーナーであるフィリップ・K・リグレーの承認を得たベックは、外野壁の全面にツタの苗木を植え付け、同時に名物となる手動式スコアボードをセンター後方に設置したのです。
当時、多くの球場フェンスが巨大な商業広告看板で埋め尽くされていた中、緑のツタで覆われたリグレー・フィールドの外野席は、都会の喧騒の中にたたずむオアシスのような品格を漂わせました。この革新的な景観デザインは瞬く間にシカゴ市民の心を掴み、単なる野球場を超えた「アメリカの歴史的建造物」としてのアイデンティティを確立する決定打となりました。
【クッションなしのレンガ壁】選手を脅かす危険性と伝統の狭間で

現代の近代的なMLBスタジアムでは、選手の激突事故を防ぐために外野フェンス全面に極めて厚いラバークッションが装着されています。しかし、リグレー・フィールドの外野フェンスは、ツタの葉のすぐ後ろに100年以上前の頑丈な赤レンガがそのまま隠されています。
テレビ中継で見ると柔らかい緑のクッションのように錯覚しがちですが、実態は硬質なレンガそのものです。フェンス際の大飛球を追う外野手は、コンクリート同然の壁に向かってトップスピードで飛び込む形になるため、打撲や骨折などの深刻な怪我を負うリスクと常に隣り合わせでプレーしています。
安全面を最優先してクッションフェンスへ改修すべきだという議論は過去に何度も持ち上がりました。しかし、カブスファンや地元シカゴコミュニティにとって、レンガとツタは絶対に譲れない神聖な伝統です。球場側はレンガ壁を維持したまま、選手会と協議を重ねつつ細心のグラウンド管理を継続しており、選手側もフェンスとの距離感を慎重に測りながら守備位置を調整しています。
【ボストンアイビーの秘密】季節で劇的に変わる緑のグラデーションと紅葉
リグレー・フィールドのフェンスに植えられているツタの正体は、主に「ボストンアイビー(ツタ属・Japanese Ivy / Boston Ivy)」と呼ばれる品種です。吸盤状の巻きひげを伸ばしてレンガに強固に張り付く特性を持ち、寒暖差の激しいシカゴの過酷な気候にも耐え抜く強靭な生命力を誇ります。
このボストンアイビーの最大の特徴は、シーズンを通して劇的な変貌を遂げる点にあります。
4月の開幕当初、シカゴはまだ冬の寒冷な気候が残っており、フェンスは葉が一枚もない茶色いツルの骨組みだけがレンガに張り付いた荒々しい姿を見せます。この時期は打球がレンガに直接当たって跳ね返るため、ボールが挟まるアクシデントはほとんど起きません。
5月下旬から夏場にかけて一気に新緑が芽吹き、7月から8月の真夏には葉が何重にも生い茂る濃密な深緑のカーテンへと仕上がります。ボールが完全に隠れてしまうのはまさにこの最盛期です。そして秋のポストシーズン争いが熱を帯びる9月下旬から10月にかけて、ツタは見事な赤や琥珀色へと紅葉し、球場全体を絵画のような美しさで彩ります。
【珍プレー・名場面録】ツタが生んだ伝説のドラマと選手たちの駆け引き
長いMLBの歴史の中で、リグレーのツタは数々の珍プレーと論争の舞台となってきました。過去には、ツタの中に打球が挟まったフリをして両手を挙げ、審判を欺いて二塁打に抑え込もうとした老獪な外野手の心理戦や、打球を探そうとツタをかき分けた瞬間に別の古い練習球がポロリと落ちてきてグラウンド上が大混乱に陥ったという笑い話のようなエピソードも残されています。
2000年代以降の近代野球においても、ツタにボールが完全にめり込んで中継カメラでも位置が特定できなくなるシーンが幾度となく発生しています。1球の行方が勝敗を分ける極限のペナントレースにおいて、自然の植物がプレー結果に直接介入してくるボールパークは世界中を探しても他に類を見ません。ツタとレンガの存在そのものが、リグレー・フィールドで行われる試合に唯一無二のドラマ性を付与しています。
【リグレー・フィールドのツタ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:打球がツタに挟まった後、ボールが自然に地面へ落ちてきたらどうなりますか?
A1:外野手が手を挙げる前にボールが自重でグラウンド上にポロリと落ちてきた場合は、インプレーとして試合が続行されます。外野手は速やかにボールを拾って内野へ返球しなければなりません。一方、審判がツタに挟まったと判断してボールデッドを宣告した後に落ちてきた場合は、宣告通りエンタイトルツーベースが適用されます。
Q2:他のメジャーリーグ球場にもツタが生えたフェンスはありますか?
A2:外野フェンス全体を本物の生きたツタで覆っているのは、現在MLB全30球団の本拠地の中でカブスのリグレー・フィールドのみです。過去には他球場が模倣を試みた事例もありますが、レンガ壁と天然ツタの組み合わせを伝統として完全に定着させているのはシカゴの聖地だけです。
Q3:冬の間、リグレー・フィールドのツタはどうやって手入れされていますか?
A3:専属のグラウンドキーパーチームがシーズンオフに剪定作業を行い、傷んだツルを取り除いてレンガ壁への負担を調整しています。シカゴの厳しい氷点下の冬を越すため、根元へのマルチング(保護材の敷き詰め)や適切な肥料やりが行われ、翌春の開幕に向けて大切に維持管理されています。
まとめ:100年を超える伝統と現代MLBが共存する聖地
リグレー・フィールドの外野フェンスに茂るツタは、単なるスタジアムの装飾ではなく、1930年代から受け継がれてきたベースボールの豊かな文化遺産そのものです。ツタに打球が吸い込まれた際の一瞬の静寂、外野手が掲げる両手、そして審判が下す判定に至るまで、すべてがシカゴ・カブスの試合観戦における極上の醍醐味となっています。
近代化とハイテク化が急速に進む現代のプロ野球界において、自然の息吹と100余年の歴史を色濃く残すレンガとツタのフェンスは、訪れるすべてのファンに古き良きベースボールのロマンを語りかけ続けています。中継や現地観戦の際は、外野フェンスが織りなす季節の色彩と、ツタが生み出すスリリングなグラウンドルールにぜひ注目してみてください。 (出典: リグレー フィールド ツタ(Yahoo!ニュース))